谷口栄一委員長所信


2012年11月2日(第46回土木計画学研究発表会(埼玉大学))

昨年3月に発生しました東日本大震災で、わが国は非常に大きな被害を受け、土木計画学に携わるわれわれは非常にショックを受けたと同時に貴重な教訓を得たと思います。 私が一番大きな教訓だと思っていますのは、非常にカタストロフィクな、大規模かつ広域的なこの震災に対して、われわれは十分な備えをしていなかったのではないかということです。小さな規模の災害に対しては、防災計画や設計、避難計画、復旧の方法など、ある程度の備えができていたと思います。しかし、今回のように、複数の県にまたがる広域的で、破滅的な災害に対する計画は十分でなかったのではないかと考えています。
今後、南海トラフを震源とするような大地震や首都直下型地震、また洪水や火山の噴火などによる大規模な災害が想定されています。その場合にわれわれは、その従来型の小さな範囲への備えではなく、非常に大規模で、しかも行政が機能マヒをして、隣の県や市町村に応援も頼めないという非常事態に対する計画論が求められていると思います。法律や制度の整備、防災教育、コミュニティの強化、通信システムの構築などについて研究を行い、解決策を提案し、実行していくことが課題であると思います。

また、土木工学は総合工学と言われ、その中でも土木計画学は総合工学である土木工学をさらにリードしていく立場にあると考えています。多数の人命が奪われ行政の中心部が傷つき、まちが壊滅的な被害を受ける最悪なシナリオがある中で、都市のガバナンスやマネジメントといわれる問題に対して、土木計画学の中でもっと議論を行なっていく必要があると考えています。
特に首都圏、中部圏、関西圏のいわゆるメガシティ、あるいはメガリージョンといわれる地域には非常にたくさんの機能が集積しており、災害に対するぜい弱性が指摘されています。リジリエンス(回復性)という言葉が最近よく使われますが、災害に対して早く、しかも十分に回復できるような力をつけることが重要だと思っています。土木計画学は従来から、経済学や心理学や情報学、最近では医学や健康科学など、いろいろな分野とも一緒に連携して研究を進めています。他の学問分野との連携のもとに社会のリジリエンスの向上を図ることが重要ではないかと思います。
東京は世界最大のメガシティです。一方で海外にはニューヨーク、ロンドン、あるいは北京、サンパウロ、ムンバイなど、いろいろな大きな都市、地域があります。そういうところの都市問題は複雑で一つの政策では解決できません。複合的な問題に対して複数のアプローチで対処しなくてはなりません。そのとき、土木計画学の役割は非常に重要であると思います。土木計画学の中では、公(おおやけ)の立場と民間の立場を一緒にパートナーシップとして考えることが最近の課題になっていますが、新しいフロンティアとして土木計画学の重要な課題ではないかと思っています。

それから21世紀は超高齢社会ということで、わが国は先進国の中で先頭を切って超高齢社会に突入しました。高齢者の問題はいろいろな面で表れていますが、実はお年寄りだけではなくて、若い世代あるいは中間の生産年齢人口世代の問題もあります。その中で、高齢者、中高年、若年層の三世代が健康的で活き活きと生活・活動できるような国土やまちをつくっていくことが重要と考えています。特に医療や福祉介護の関係者と一緒に連携したうえで、土木計画学からアプローチすることが必要ではないかと思います。
ガンを例にとりますと、今ガンになる確率が男性でだいたい50%、女性は40%くらいといわれており、しかも一度ガンにかかりますと、何度もガンにかかる場合があります。たとえば胃ガンのあと転移して食道ガンになるという場合もあります。一方で病院のキャパシティは足りないので、自宅での在宅医療が進められており、これからますます増えてくるという状況です。これは一例ですが、世の中がどんどん変わる中で、われわれの土木計画、都市計画の考え方も大きく変えていかなくてはならないと思います。
さらに超高齢社会の中で、従来はなかった、さまざまな心の問題がでてきます。これらの問題にどのように対処するかが、われわれにとって大きな課題になると思います。

そして国際化の問題があります。土木学会に国際センターができ、現在、学会全体としても国際化を進める機運にあります。土木計画学研究委員会としましても、是非、国際化を進めようと考えていますが、私が一番重要だと思うのは国際的な共同研究について、計画の分野でいろいろな問題が起こってきていることです。
最近は大規模な予算を伴うようなコンソーシアムを組んで、非常に複雑で難しい問題にチャレンジすることが研究者の間で行われております。ただ残念なことに国際共同研究のコンソーシアムは欧米の研究者がリーダーシップをとることが多く、日本の土木計画学の先生方も参加しているとはいえ、リーダーシップをとることが難しいのではないかと思います。言葉の壁もあるのですが、もう少し学会全体でバックアップをして、大きな問題に対して国際的な場で普遍的な議論ができるような体制をつくるべきではないかと思います。
また、論文の英文化も土木学会の中で進められていますが、やはり世界トップレベルのジャーナルに若い方の論文がたくさん発表されることが重要ではないかと思います。

これまで申し上げました、私が大事だと思うことの4つをまとめます。一つがカタストロフィクな広域的な災害に対する、リジリエンスについての計画論を確立することです。2番目は総合工学としての土木工学をリードするような土木計画学を創造していくことです。3番目は超高齢社会の新しい問題、医療・介護・福祉等を含めた複雑な問題を土木計画学の中で取り上げるということです。4番目は大規模な国際共同コンソーシアムをできるだけ日本がリードしていくということです。

もちろんこれ以外にも多くの問題があると思いますが、私はこの4つの点が今の日本で土木計画学に関連して重要と考えています。また、土木計画学分野が一層進展していくためには、皆さま方が重要と思われる分野に重点的に資源を投入していただければいいのではないかと考えています。